Tokyoリリース

【シンポジウムレポート】世界難民の日−信仰が支える難民保護−

2013年7月24日 

2013年6月20日(木)、「信仰が支える難民保護」と題したシンポジウムが、UNHCR、駐日事務所、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会および明治大学との共催で、国連大学ウ・タント国際会議場において300名を超える参加者を迎えて開催された。

こ のシンポジウムでは、「世界難民の日」にあたり、世界中の人道危機の最前線で人々の生命を救うべく活動を行い、人間の尊厳の尊重、社会的弱者のエンパワー メントを説いている宗教的倫理に基づき社会活動を行う団体(faith-based organizations)に焦点を当て、それぞれの活動の紹介を行うと同時に、その背景にある宗教的価値観および伝統と、難民保護の原則の共通項を模 索し、今後のUNHCRと宗教コミュニティとの連携について議論した。


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司会のダバン・サイ・ヘイン氏 (c)UNHCR



開会挨拶】


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ヨハン・セルス 国連難民高等弁務官事務所駐日代表 は世界で4千500万人以上の人々が故郷を離れ避難生活を送っている現状、そして現在最大の人道危機の様相を呈しているシリア情勢について言及した。今回のシンポジウムの「信仰と保護」というテーマについて、世界中で宗教コミュニティは人道危機の現場で難民の保護をはじめ、人々の命を救うために最前線で活躍してきたと説明し、日本でも1980年代以降インドシナ難民の支援を宗教団体が行ってきたことなど、日本、そして世界における宗教理念に基づき社会活動を行う団体(faith-based organizations)の活躍を賞賛した。続けて宗教的価値観および伝統と、難民保護の原則の共通項を模索し、今後のUNHCRと宗教コミュニティとの連携について議論するという本シンポジウムの目的を説明した。最後に来場者に感謝の意を示すと共に、このシンポジウムによって難民支援により積極的に取り組むことが出来るよう、そして日本でのUNHCRと宗教コミュニティのさらなる関係の強化に期待を寄せた。

 

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 ヨハン・セルス 国連難民高等弁務官事務所駐日代表 (c)UNHCR


アントニオ・グテーレス 難民高等弁務官  はビデオメッセージを通じて会場に集まった参加者を歓迎した。難民にとって信仰がいかに大切であるか、そして宗教コミュニティと宗教理念に基づき支援を行う団体の難民保護における貢献を高く評価するとともに、日本そして世界で今後さらなる活動の強化を願った。

 

逢沢一郎 UNHCR国会議員連盟会長  はシンポジウム開催にあたり、宗教の力と政治の力を合わせることで難民問題の解決や世界平和への貢献が実現可能だと期待を寄せた。逢沢議員をはじめ、関係者の働きかけによってタイ南部における紛争地域への援助を目的とした日本政府による草の根・人間の安全保障無償資金提供の具体例を紹介し、政治と宗教が協力して和解を実現する取り組みを紹介し、シリアにおいても同じ和平プロセスの必要性を訴え、日本の第三国定住プログラムの安定的な発展と拡大にも取り組まないといけないと述べた。

 

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 逢沢一郎 UNHCR国会議員連盟会長 (c)UNHCR



基調講演】

ウィリアム・F・ベンドレイ WCRP国際委員会事務総長  は「平和のための宗教」というテーマで講演し、難民保護に関して議論する際に重要となる宗教間の基本理念に関する考えを共有した。すなわち、1.いわゆる「宗教バイリンガル能力」の意味、2.「人間の尊厳」と「共有される安全保障」という二つの概念を難民保護を巡る談話に取り組むことの重要性、3.難民保護・移民問題を巡る課題を解決するために重要となる宗教の強みをどのように引き出せるかという方法を説明した。

ベンドレイ氏の講演内容はこちら

また、ベンドレイ氏は日本が世界宗教者平和会議第一回大会を開催し、「人間の尊厳」や「共有される安全保障」という宗教の共通概念を生み出し、創造力を使った宗教多元主義的な行動を世界中に発信する機会を提供したことに対して感謝の意を表した。


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ウィリアム・F・ベンドレイ WCRP国際委員会事務総長 (c)UNHCR



難民の声】

ジャファル・アタイ 明治大学学生
 は自らUNHCRの難民高等教育プログラムの奨学生として明治大学で学ぶ難民の視点から、自らの経験と意見を共有した。難民となり、困難な状況を強いられてきたなかで支えてくれたのは希望であったと語るアタイさんは、イスラム教の教えがあったからこそ希望を持ち続けることができ、そして支援してくれた人々が自分はいつかこの困難から抜け出すことが出来るのだと信じさせてくれたと加えた。UNHCRの活動をさらに強化するとともに難民が新たな環境になじめるよう手助けをする必要があると提唱し、難民支援は世界平和への大きな貢献であり、お互いの違いに注目するのではなく、共通項を見出すことが難民への支援において大切なことであると締めくくった。


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ジャファル・アタイ 明治大学学生 (c)UNHCR


第一部 パネルディスカッション】

「友好的コミュニティの構築と難民保護のエンパワーメントへの支援」


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モデレーター:中村 和恵 明治大学教授(文化論・比較文学)


新岡史浩 特定非営利活動法人在日本ラオス協会事務局長 は難民となり日本に定住するにあたり最も困難だったのは言葉の壁であると語った。新岡氏は自らの体験談に加え、ラオスから僧侶を招待し行事などを通してコミュニティの結束を固めるという活動を紹介した。日本に新たなコミュニティを築くうえでいかに信仰が重要であったかに触れ、ラオス人の仏教信仰が異国で暮らす難民の心の支えとなり、人と人とのつながりを深め、そして助け合いの精神を生んできた、と語った。

 

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新岡史浩 特定非営利活動法人在日本ラオス協会事務局長 (c)UNHCR

資料はこちら


若林恭栄 安楽寺住職・公益社団法人シャンティ国際ボランティア(SVA)会会長 はSVAの活動の発端がカンボジア難民支援だったこと、そして現在も、子ども達の教育支援を中心にアジアの国々で難民支援活動を行っていると述べた。その当時仏教教団が海外で支援活動をした前例がないなか、少ない資金でできることは何か検討を行った結果、日本において歴史的に「寺子屋」として教育活動を行ってきた経験から、教育・文化支援を行うようになった、と説明した。仏教の基本理念である「共生」、つまり共に生きるという教えをもとに、優位にあるものが劣っているもの与えるのではなく、共に生きていくのだ、という精神で今後も活動していきたいと述べた。そして、日本における神道コミュニティとの連携にも前向きな姿勢を示した。


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 若林恭栄 安楽寺住職・公益社団法人シャンティ国際ボランティア(SVA)会会長 (c)UNHCR


杉野恭一 WCRP国際委員会副事務総長 は昨年12月の「難民高等弁務官のダイアローグ」を受けて取りまとめられ、今年11月の第9回WCRP世界大会で正式に発表される予定の難民・避難民支援に関する宗教コミュニティの行動規範について報告した。もとより中立性を重視してきたUNHCRがグテーレス難民高等弁務官の指導のもとで宗教コミュニティとの連携を強めていく姿勢を評価した。また、異なる宗派の子供たちが安全に学べる場を築くなど、諸宗教間の協力体制の成果をアピールし、今後も宗教コミュニティの全レベルの関与、異なるグループの融和に貢献するために諸宗教協力が不可欠であると主張した。世界各国で宗教のポジティブな力が人道支援において大きな成果をもたらしていることを日本も見習うべきだと示唆し、今後の日本政府と宗教団体間の対話に期待を表明した。

 


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杉野恭一 WCRP国際委員会副事務総長 (c)UNHCR


幸田和生 カトリック東京教区補佐司教 は1975年以降ベトナム難民の宿泊の手配などの援助をしてきた経験を持つカリタスジャパン、そして今日急増する在日フィリピン人やペルー人などの労働問題、生活相談そして信仰サポート、難民・難民申請者の援助を行うカトリック国際センターの双方の活動を紹介した。難民支援に関わり、宗教が個人の内面のみならずコミュニティとして人と人とのつながりを見出すことの大切さを再確認したという幸田氏は、私たちも難民から学ぶことが出来ると述べた。それは、人間関係が希薄になった日本社会において、信仰の力が希望となり、神、そして人との繋がりを感じることで孤立を防ぎ、不安や絶望を乗り越える力となるということである、と説いた。また、会場からの、宗教に対して懐疑的な日本人に関連した質問に、全ての宗教の根底にあるのはあらゆる人々の尊厳を尊重することであり、あるひとつの宗教だけが大事なのではないと指摘した。難民問題においても、助けてあげるという目線ではなく、宗教の違いを超えて、みな兄弟として尊重するということを、宗教団体として示していきたいと述べた。 



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幸田和生 カトリック東京教区補佐司教 (c)UNHCR


樋口美作 日本ムスリム協会理事・WCRP日本委員会監事、イスラーム はコーランには難民の定義がされていないが、メッカで迫害を受けた預言者ムハンマドはメディナに逃れ、支援者によって助けられた、いわば難民であったといえると言及し、このことがイスラームにおいてムスリム相互の助け合いの精神を生み、貧者や困窮者に対する救済はイスラームの基本になったと述べた。信徒の寄付などで集められた物資などが難民キャンプに送られるなど、イスラム教と難民支援の関係もまた教義に根付いているし、同胞の痛みを分かち合うという身近なところでの相互扶助、すなわち「喜捨」の教えは共同体を構成していく上で重要となると説明した。

 



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樋口美作 日本ムスリム協会理事・WCRP日本委員会監事、イスラーム (c)UNHCR



第二部パネルディスカッション】

「信仰が支える難民保護:その実践」


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モデレーター:小尾尚子 UNHCR駐日事務所副代表(法務担当) (c)UNHCR


阿部康次 外務省総合外交政策局人権人道課課長 はいわゆる難民先進国とよばれる米国、ニュージーランド、カナダなどの例を挙げ、民間の宗教団体への政府の支援制度を紹介し、日本国内の難民支援における民間の宗教団体の役割について述べた。日本のインドシナ難民の受け入れが1982年に正式に始まるまでは、民間の宗教団体が重要な役割を果たしたという点を強調し、宗教団体が一時滞在難民のために設置した滞在施設を紹介した。
難民エンパワーメントに関して、阿部氏は外務省が行なっている支援として職業訓練、NGOと協働して行っているコミュニティ結束へのサポートを紹介した。

 

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阿部康次 外務省総合外交政策局人権人道課課長 (c)UNHCR

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高瀬一使徒 ワールド・ビジョン・ジャパン、支援事業部部長 は「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」、そして「うけるより与える方が幸いである」というキリスト教の黄金律をベースに難民のニーズに答える支援を行なっているというワールド・ビジョン・ジャパンの活動を紹介した。
高瀬氏によると、「難民のエンパワーメントは最終的に自立させることが目標」であるが、就職の支援のみは必ずしも円満な家族の生活に繋がるわけではない。そこで宗教団体は難民に人生の価値観や家族のバリューという全世界共通する価値観に対する意識を持たせることによって、充実した人生へ導くという役割を果たせるのではないか、と述べた。

 

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高瀬一使徒 ワールド・ビジョン・ジャパン、支援事業部部長 (c)UNHCR

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永坂哲 鶴見大学国際交流センター准教授・主任 は鶴見大学歯学部附属病院が行なっている難民の無料歯科治療支援活動に関する説明を行った。三年前から、UNHCR駐日事務所及び難民フォーラム(FRJ)と連携をし、歯科検診、通院費支援・難民問題の認知度向上に向けた活動を継続的に実施してきた。またディスカッションの中で永坂氏は難民の自立の過程における支援者と支援対象者の間の関係に触れ、難民と受け入れ社会の間のギャップを強調するのではなく、人間のレベルでの共通点を探自立できるようなツールを提供することの重要性を強調した。永坂氏は自らが医師であるという立場から、患者を差別せず、偏見を持たず、人道的立場で治療をするという医者としての倫理は難民支援にも通じる、と述べた。

 

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永坂哲 鶴見大学国際交流センター准教授・主任 (c)UNHCR

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有川憲治 カトリック東京国際センター副所長 はインドシナ難民が来日し始めた70年代後半からカトリック教会が行なってきた難民支援について説明した。地域の教会と協力し、日本社会への統合支援、就労支援、住居支援などを行ない、難民収容者の仮放免支援や仮放免者の生活ための募金活動など、様々な活動を紹介した。ディスカッションの中で有川氏は難民のエンパワーメントを支援するために、宗教団体が有している3つの機能:1.場所(集会場など)、2.事業、3.共同体を活用できると述べた。特に、難民のコミュニティ作りには集会所が必要であることから、集まる場所を提供するのは宗教団体ができる貢献の一つであると述べた。

 


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有川憲治 カトリック東京国際センター副所長 (c)UNHCR


クレイシ・ハールーン 宗教法人日本イスラーム文化センター事務局長 マスジド大塚 は「地球上に生きているものに慈悲を与えれば、天の上のお方(アッラー)がその人に慈悲を与える」という理念をベースに、2000年アフガニスタンに起こった干ばつからパキスタンに逃れてきた難民のための支援活動を開始したと説明した。日本国外の医療支援、教育及び食糧支援が主な活動であったが、東日本大震災の際、日本国内の被災者の支援にも積極的に関わるようになったと述べた。難民のエンパワーメントにおいて大事なのは精神的な支援だとハールーン氏は述べた。すなわち、個人カウンセリングなどを通じて人々に希望を与えることは宗教団体が貢献できることであり、また、自分のモスクに余裕がない場合など他のモスクに頼むことで協力し合う体制を作り、良い成果にも繋がる、と語った。



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クレイシ・ハールーン 宗教法人日本イスラーム文化センター事務局長 マスジド大塚 (c)UNHCR






会場からの質問
の中で、難民の日本社会への参加、無宗教団体と宗教団体の支援の違い、日本における宗教教育などについての質問があった。

難民の社会への参加に関して有川氏は、生活費に困っている難民が充実した社会生活が出来ない場合に宗教団体の活動、事業に難民を招待することで、地域活動、共同体の活動への参加を可能にすることができるのではないか、と提案した。難民のエンパワーメントや外国人コミュニティの活性化は日本の社会の活性化にも繋がると有川氏は説明した。

無宗教団体と宗教団体による支援の違いに関して高瀬氏は、無宗教団体、宗教団体、NGOなどにもそれぞれミッションやビジョンがあり、明確な価値観があるという意味ではどの団体にも差異はないと語った。しかし、宗教的にセンシティブな地域では無宗教団体の方が活動しやすいかもしれない。一方、宗教団体は支援者のネットワークが広く、継続的な支援が可能となる、という点で強みを持っている。それぞれの団体がその特徴を最も有効に活用していくことが求められる、と述べた。

日本の教育の中で宗教への理解、知識を身につけるための指導が含まれていない問題に関しては、高瀬氏は、教育の改革を行なう過程で取り上げることが必要ではないか、また、宗教に加え、難民問題、国内におけるホームレス問題などに取り組む人材の育成を検討する時期が来ているのではないか、と問いかけた。

阿部氏は、政府と宗教団体との連携に関して、日本政府は特定の宗教団体をサポートことがない限り、政府と宗教団体との連携は可能であると示唆した。

ディスカッションの最後に、UNHCRと宗教団体の協力ついてパネリストと一緒に考えた。まず有川氏は、難民共同体支援の重要性を強調し、かつて作られた移住者共同体からのアドバイスを参考にしながら、新たな共同体を作ることが大事だと言った。また、仮放免制度の改善においても、仮放免後の支援や収容なしの制度作りへのアドボカシーを協力しながら行なうのが望ましいと述べた。

無料歯科活動を行なっている永坂氏はUNHCR事務所によるこれまでのサポートを高く評価し、これからもUNHCRが身近で開かれた存在であり続けることを願った。

高瀬氏はJ-FUNはUNHCRとNGOの連携を強めている。またそのメンバーのJ-FUN Youthは、学生主体のNGOであち、学生との連携を強めており、NGOとの連携を通して、一般市民にもUNHCRの働きを広めることが大事であると述べた。

阿部氏からは、専門機関として高い説得力のあるUNHCRとの協力を得ることによって、国民の間に難民支援の意義を推進することができるとの指摘があった。さらに、日本政府と民間団体との連携においても、UNHCRの参加により、市民社会とのネットワークの構築が容易になると述べた。

閉会に際して、UNHCRの小尾尚子氏は庇護を求める者に救いの手を差し伸べることは宗教・宗派を超えた共通認識であると述べた。すなわち、人間性、他人への思いやり、相手に敬意を持つことなどは難民保護の根本にある考え方であるが、同時に不安や絶望を乗り越える難民の力から私達は学ぶことが多い、と述べ た。「難民は弱い人、支援を待つ人」、というレンズで見るのではなく、ディスカッションの中でも提案されたように、「兄弟姉妹として共に生きる」ことの大 切さを強調し、シンポジウムの参加者一人ひとりが、自分のリソースを彼らの支援にどう活かすことができるのかを考え、そのうえで、それぞれが持つネット ワークをつなげていく、という取り組みが今後進むことに期待を寄せた。


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